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基礎的な問い
「自社の技術力・人材力を磨いていけば、製品は自然に売れる(90頁)」という典型的に日本的な発想はどこまで通用するのか?
逆に、戦略の策定と実行はどのような場合に有効で、どのような場合に通用しないのか?
結論
自動車業界やSES業界、その他”縁の下の力持ち”的な業界のように「ライバル企業との競争が不可避」かつ「将来的な収益について一定の安定性がある」の2条件を満たす市場では、企業リソースの質が最重要である。
一方、「ライバル企業との競争が回避的(=独占や寡占が可能)」である場合には、差別化戦略や規模の経済による参入阻止戦略が機能する。米コーラメーカーや(任意の業界における)グローバルでデファクトスタンダードを狙う企業などを例として挙げることができる。
また、IT業界のように「収益の将来的な不確実性が高い」市場では、事前に緻密に計画された戦略や企業リソースの質よりも「知の探索と深化」や「ダイナミック・ケイパビリティ」といった継続的に自己や商品を変革・発展させる能力が重要となる。
上記への補足
「ライバル企業との競争が不可避」かつ「将来的な収益について一定の安定性がある」の2条件を満たす市場の第二条件「将来的な収益について一定の安定性がある」は、以下の二つを含意している。
- IT業界のように将来性に関する見通しが困難ではない
- デファクトを取った企業によってコストを下げられたりシェアを奪われたりするリスクが少ない
市場特性と経営戦略
競争の型 | IO型 | チェンバレン型 | シュンペーター型 |
基盤となるモデル | 完全競争↔完全独占 | 独占的競争 | イノベーションなど |
市場特性 | ライバル企業との競争が回避的で、独占や寡占が可能である | 「ライバル企業との競争が不可避」かつ「将来的な収益について一定の安定性がある」 | 将来に関する不確実性が高く、絶え間ない変革が求められる |
概要 | 産業の参入障壁や企業グループ間の移動障壁が企業の収益性に影響する。企業にはこれらの障壁を高めて「ライバルとの直接競争を避ける」戦略が求められる。規模の経済による参入阻止戦略や、差別化戦略がその代表例である。 | 企業が差別化された製品・サービスを持って競争することは所与の条件であり、他方で産業への参入障壁は低い状態。企業は差別化をしながらもライバルと厳しい競争を強いられる。その差別化の源泉となりうる経営資源が重要となる。 | 経営環境の変化が激しく、将来が予見しにくい状態。従って、安定時なら収益に貢献しうる産業構造・移動障壁・経営資源などについての不確実性が高く、SCPやRBVに基づく戦略が通用しにくい。 |
フィットする経営理論 | SCP | RBV | ダイナミック・ケイパビリティ&知の探索・知の深化 |